三沢ぁ、死ぬことないじゃないかよ!
僕は圧倒的な「新日派」です。
突然だと、よくわからないですかね。一昔前のプロレスファンは、「新日本プロレス派」と「全日本プロレス派」にわかれていたんです。
実家にいた頃、テレビでプロレスを観ていると、祖母が「これは猪木のほうか? 馬場のほうか?」と、よく聞いてきました。あばあちゃんは、どっちが好きなんだったっけなぁ。
そのころのプロレスファンは、自分がどちらであるのかを自己申告しないといけないようなムードがありました。僕は「新日派」。いまだにアントニオ猪木は、僕のヒーローのひとりです。
そんな僕が、「敵地」である全日本プロレスの会場に、一度だけ行ったことがあります。
当時、『週刊プロレス』の編集長だったターザン山本が、ジャイアント馬場について書いた本を読んでみたかったのですが、会場販売しかされていないことを知り、会社の帰りに日本武道館へ行ってみたのです。
グッズ販売のテントで、お目当ての本と一緒にビデオも買っちゃいました。1994年3月5日、スタン・ハンセン&ジャイアント馬場組vs三沢光晴&小橋健太(当時)組。僕が買ったビデオには、小橋のサインが入っていました。
そのまま帰ろうとしたら、ダフ屋のおじさんに声をかけられました。
「もう始まっちゃってるけど、観ていかない? 1000円でいいよ」
1000円ならいいか、と思って、フラッと中に入りました。休憩前の試合では、ジャイアント馬場が優雅な16文キックを放っていました。幽玄の舞い、でした。
この日の初めての全日本プロレス観戦で、おどろいたことが二つ。
まず、ファンの声援。「小橋さん、ファイトーッ!」って男が叫んでるんです。
新日本プロレスの客席からの野次は、キツイものばかり。「いつまでもタラタラやってんじゃねーよ!」「足、攻めろ、足!」「もういいよ、終わらせちゃえ!」
それしか知らなかった僕は、「小橋さん、ファイトーッ!」に唖然としました。君達は、選手の友達か?
2つめの驚きは、メインの三冠シングルのタイトルマッチのフィニッシュでした。三沢光晴vs川田利明。長くてタフな試合でしたが、最後に三沢が出した、変形のタイガー・ドライバー。受身も何もできない状態で、川田の首がマットにめり込みました。オイ! その落とし方はまずいだろ! 「ゴンッ!」という音が、2階席まで聞こえました。おい、死んじゃうよ!
でも、ファンはみんな感動して、あちこちで泣いてましたね。「ありがとう、三沢さん!」「川田さん、ありがとう!」
いやいや。
そこまでやんなきゃ、ダメなの?
それに興奮してるファン、なんか変だろ?
まるで、画面の中のゲームを観てるみたいだな?
リングの上にいるのは、生身の人間だぞ?
プロレスリング・ノアの三沢光晴が、試合中にバックドロップを受けて亡くなりました。メインイベントの、タッグマッチのタイトル戦の最中のことでした。
なんか、あの日感じた違和感が現実になったような気がしてなりません。悲しい事故。あってはならない事故。
「プロレスのどこが面白いの?」半ば軽蔑交じりに、今まで何百回となく問われ続けたこと。こういう事故が起きると、ますます世間の風当たりはきつくなるのかもしれません。
でもそれは、三沢が望んだことではないはず。
僕は子ども達と、プロレスを観続けます。リングの上でしか見ることができない、人間の気持ちってあるような気がするから。
「プロレスのどこが面白いの?」
それがまだわからないから、見続けているのかもしれません。
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